【進行性網膜萎縮症(PRA)で失明した愛犬との日々】診断から旅立ちまで、飼い主が伝えたいこと

愛犬が「進行性網膜萎縮症(PRA)」と診断され、失明と告げられたとき、飼い主はどうすればいいのでしょうか。

この記事では、ミニチュアダックスフンドが2歳で失明し、2014年に10歳で旅立つまでの8年間を過ごした飼い主である私の体験を1本にまとめてお届けします。

日常生活の工夫から犬の視覚の仕組み、しつけ、そして音楽で生まれた絆まで。

不便であるが不幸ではない」その言葉が、今、途方に暮れているあなたの支えになれれば幸いです。

目次

壁に向かって勢いよくぶつかった日

元々、動物全般が苦手だった私が、縁あって子犬を迎えたのは2004年のことです。

愛くるしい笑顔に大きな目、その目はいつも緑色に光っていました。

家族に迎えて1年ほど経った頃から、気になることが増えてきました。

ボール遊びをしなくなったこと。お散歩でつまずくようになったこと。

それでも変わらず活発だったので、まさか目に疾患があるとは思いもしませんでした。
しかし、ある日、家の中で壁に向かって勢いよくぶつかりました

進行性網膜萎縮症(PRA)と診断されて

近くの動物病院を受診すると、すぐに大学病院付属の動物医療センターの眼科を紹介され受診しました。
検査を終え、半日後に迎えに行くと、思いもよらない病名を告げられました。

進行性網膜萎縮症(PRA)とは

進行性網膜萎縮症(PRA:Progressive Retinal Atrophy)は、遺伝性の眼疾患です。

網膜の視細胞が徐々に機能を失い、最終的に失明に至ります。
治療法はなく、投薬も不要、つまり、治ることのない病気です。

診察時には既に失明しており、光さえ失っていました。
平均寿命が15年といわれるミニチュアダックス。そのとき、私の犬はまだ2歳でした。

あの緑色の目の正体

私が可愛いと思っていた「緑色に光る大きな目」

実はそれは、瞳孔が散大してタペタム(網膜と脈絡膜の間にある反射層)が見えている状態でした。

タペタムは弱い光でも感じ取れるよう、光を網膜の視細胞に反射して戻す役割を持っています。
あの子はずっと、弱い光を感じ取りながら暮らしていたのです。

帰りの車の中で、目が曇って運転できなくなるほど泣きました。
「この子の目はもう一生見えないの?私の顔を二度と見ることができないの?」突きつけられた現実に、どうやって帰ったか覚えていないほどでした。

不便であるが、不幸ではない

「犬は、私たち人間のように視覚に頼った生活をしていない。
飼い主のあなたがその状態を知ってサポートすることで、幸せに暮らしていけますよ。」

救いだったのは、犬自身に痛みがないこと、治療も投薬も必要ないこと。

今、振り返って思うのは、「不便であるが、不幸ではなかった」ということ。

初めて迎えた犬がこの子でよかったとさえ思っています。
動物が苦手だった私には「普通の犬はこうあるべき」という先入観がなく、ありのままのこの子を受け入れることができたからです。

失明した犬との暮らしの工夫

室内での工夫

失明した犬と暮らす上で、まず取り組んだのは床に物を置かないこと。

投げたボールを取りに行けなくなった代わりに、音が鳴るボールがお気に入りになりました。
咥えながら「ピーピー」鳴らしながら走るのが大好きで、片付けた場所がその都度違っても、正確にその場所を覚えていて、背伸びして欲しがりました。

階段は上りは勢いよく登るのに、下りは苦手で立ち止まりました。

\ 室内での工夫/

\ ソファ・階段 /

お散歩・外出での工夫

散歩中に見知らぬ人が触ろうとするたびに「目が見えていないので」と必ず伝えるようにしました。

普段からよく言葉をかけていたためか、「右」「左」の言葉の意味を覚え、段差では「ぴょんして」と声をかけると跳んでくれるようになりました。

外で躓くことは少なく、散歩自体にはあまり不自由しませんでした。

犬の目の見える仕組みを学ぶ

項目人間
視覚への依存度約90%以上約30%
視力(目安)約1.0約0.3
見える色の範囲広い(赤・緑・青)黄緑〜青(狭い)
動くものへの反応普通非常に敏感

その時、私が学んだ「人間と犬との見える仕組みの違い」は上記の通りです。

犬にとって赤と緑は同じ色に見えるらしく、緑の芝生でボール遊びをするときは青いボールを選ぶと目立ちやすくなるとのこと。

犬の視覚依存度は約30%。
嗅覚や聴覚を主軸に生きているため、視覚を失っても人間が思うよりずっとうまく生活できることを、実際に育てていて実感しました。

同じ疾患を持つ犬と飼い主のサークルで知ったこと

確定診断から数ヶ月後、動物医療センターの眼科医から「目の見えない犬と飼い主のためのサークル」への参加を誘われました。

そこには約15頭の目の見えない犬たちが集まっていました。
進行性と突発性(24時間以内に失明)の2パターンがあること、飼い主の受け入れ方も様々であることを知りました。

「犬の目が見えない状態を犬の個性と受け止めて、これからも楽しく暮らすことができるということを、飼い主さんには理解してもらえない。だから、皆に、その様子を見てもらうために声をかけました。」

そうか、それでいいんだ。
改めて、センターの眼科医にそう言われて、嬉しかったことを覚えています。
大学の学園祭では「目の見えない犬と暮らす工夫」というテーマでトークをしたこともありました。

犬を通じて生まれた、かけがえのない縁

犬を連れてピクニックやペンション、犬の温泉など様々な場所へ出かけるうちに、旅先で生涯の友人と出会いました。

同じ犬種を飼っていた彼女は「見えなくても可愛いことには何も変わらないよ」と言い、私の犬の目が見えないことを全く気にせず接してくれました。

その後、失明から1年後に同じ犬種の子犬を迎えました。
子犬は半年で兄を追い越し逞しくなり、いつしか大勢の人や犬がいるとき、兄を前で庇う仕草をするようになりました。

2頭はいつも一緒に、丸まって眠っていました。その姿は、つい起こしたくなるほど愛おしかったです。

失明した犬のしつけ・トレーニングについて考える

失明後、光を失った分だけ音への感度が上がり、吠える声も一時期大きくなりました。

自宅トレーニングを試みましたが、音の聞き分け能力が高すぎてリアルとそれ以外を見分けてしまい、またおやつのご褒美も効果がなく、あまり成果が出ませんでした。

そこで「自分が学んで、この犬の専属トレーナーになる」と決めて、犬のしつけインストラクターコースを受講しました。

トレーニングを積み重ねた結果、「ハウス入って!」の一言でクレートに走って入るようになりました。

目が見えなくても、飼い主との信頼関係があれば、犬はちゃんと応えてくれるんだと学びました。

\ トレーニング/

光を失った犬が、音で見せた奇跡

私は趣味でピアノを弾きます。

たまたま子犬を迎えた翌月が発表会で、毎日練習していました。

2週間ほど経つとピアノの音で眠るようになり、ある日録音を確認すると、最後の方に犬の声が重なっていました。

繰り返し聴かせているうちに、曲の始まりの和音を弾くと、ムクっと起き上がり、リズムとメロディに合わせて遠吠えのように歌い出すようになりました。

他の曲には反応せず、この曲にだけ、まるで自分のテーマソングであるかのように誇らしげな姿で歌うのです。

目が見えなくなっても、その歌声は変わりませんでした。

いちご

失った視覚を補う五感がある。私の犬の場合は、聴覚でした。

旅立ったあとも、愛しさは変わらない

2014年5月。気高く静かに旅立ちました。10歳4ヶ月でした。

旅立った直後は、しばらくその曲は弾けなくなり、街中でふとその曲に出くわすと、涙が自動で流れました。

今は少し落ち着いて、あの遠吠えのような歌声が聴きたくて、時々弾いてしまいます。
生きていた時間より、お空にいる時間の方が長くなってしまいましたが、愛しさは変わらない。むしろ、増す一方です。

愛犬の目が見えなくなったあなたへ

もし今、愛犬の失明宣告を受けて途方に暮れているなら、伝えたいことがあります。

大丈夫です。あなたが、あなたの愛犬の目の代わりになることは、十分にできます。

視覚を失っても、犬は嗅覚・聴覚・触覚、そして飼い主との信頼関係で生きていける。
日々の暮らしを少し工夫して、言葉をかけ続けて、一緒に楽しむことをやめなければ、愛犬は幸せに生きていけます。

不便であるが、不幸ではないこの言葉が、少しでも誰かの背中を押せることを願っています。

まとめ:PRA(進行性網膜萎縮症)犬との暮らし チェックリスト

診断後すぐにできること

  • 床に物を置かない(つまずき防止)
  • 突然触る人に「目が見えない」と伝える習慣をつける
  • 音の鳴るおもちゃを活用する

日常生活の工夫・心構え

  • 声かけで方向・段差を伝える(「右」「左」「ぴょんして」など)
  • 家具の配置をなるべく変えない
  • 犬の視覚依存度は約30%(嗅覚・聴覚で十分補える)
  • 陽性強化(褒めて育てる)トレーニングは視覚がなくても有効
  • 飼い主が状況を受け入れることが、犬の安心につながる

医療・サポート

  • PRAの治療・投薬は不要(現時点では治療法なし)
  • 二次診療の眼科専門医への受診を推奨
  • 同じ疾患を持つ犬の飼い主コミュニティへの参加も心の支えになる

この記事は、進行性網膜萎縮症(PRA)で2歳で失明し、2014年に旅立ったミニチュアダックスフンドとの日々をまとめたものですもとに書きました。
個体差がありますので愛犬の目に関して気になることがある場合は、かかりつけの獣医師にご相談ください。

最後までお読みいただきましてありがとうございました。

目次